「開発設計」は、エンジニアの業務の中でも花形のイメージがあるもの。
一方、開発品の「評価」については、どうでしょうか?
「評価」は設計業務を行うために、言わば仕方なく行う日陰的な業務のイメージがあり、日陰であるが故にあまり見向きもされず、もっと正確に測ろう、もっと効率よく計ろうなど、改善に向けた動きがあまりなされていない分野なのかもしれません。
しかしこの日陰者の「評価」こそが、花形の「開発設計」をより輝かせる鍵を握っているのです。
このことにいち早く気付き、一度は事業が消滅するも奇跡の復活を果たしたWTIの「カスタム計測システム事業復活」の物語をお楽しみください。
リーマンショックの余波が世界経済を揺るがす最中のある日、WTI社内では重苦しい空気の中、組織変更が議論されていた。その会議では、それまで矢野が担当していた「カスタム計測システム事業」を解散することが会社として正式に決定された。
矢野は「カスタム計測システム事業」に対して漠然とした将来性を感じてはいたものの、将来のビジネスの進展を定量的に明言することは難しく、悔しい思いと後ろ髪を引かれる思いを残しながらも、この会社の決定にただただ従うしかなかった。
「でも、絶対この事業はお客様の役に立つはずだ。いつか必ず復活してみせる」と矢野は密かに心に誓っていた。
ある日のこと、会社の同僚から相談を持ちかけられた。
「お客様が、当社が提出した熱シミュレーション結果がお客様の測定値と合わないとおっしゃるんですよ。ウチのシミュレーション結果には絶対の自信があります。当社独自の高精度シミュレーション技術がありますし、これまでも多くのお客様から精度の高さを褒めていただいています。」
人から頼られるとつい何とかしてあげたいとの思いがフツフツと沸きあがるのが矢野という男。即、頭がフル回転モードに入った。
いつものことだが、彼はエレクトロニクスの設計者としての技術・ノウハウを駆使して、原理原則に立ち返り、根本原因を探し出し、解決に繋がる深いレベルで対策を打つのが真骨頂だ。
このとき矢野は、お客様の温度測定の方法に問題点があることをいち早く見出し、温度センサ部を含め最適な計測システムをご提案した。その結果、シミュレーション結果とピタリと一致する実測結果を得ることができた。そして、件のお客様に大いにご満足をいただけたのだった。
この一連の対策を行い、ほっと安堵の胸を下ろした矢野は思った。
「カスタム計測の真骨頂、ここに見つけたり!」
「お客様の仕事は新製品を開発設計することだ。だから、開発品を評価するという業務は言わば『仕方なく行う日陰業務』。だから、測定精度が充分ではなくても、自動化がされていなくても、それを問題として対応することがお客様にとっては難しいことなんだ」
「電子機器/回路の設計を含めエレクトロニクスの専門家集団であるWTIエンジニアなら、どのように評価すべきかを根本的なレベルから考えられる。そしてそれを実現するために、ハードウェアとソフトウェア技術を駆使し、最適なカスタマイズした計測システムをご提案することで、お客様のお困り事を解消して差し上げられる! これだー!」
このことに気付いた矢野は、その後、エレクトロニクスの専門家の知見を余すことなく発揮し、次々とお客様の製品評価の問題を解決していった。このようなことが続いたことで、ついに会社もこの事業の将来性を認めざるを得なくなった。
現在、矢野はその事業を柱とする部の部長を務めている。
時折、あの頃を振り返り、このビジネスを作り上げるきっかけを作っていただいたお客様と、惜しみない協力をしてくれた同僚への感謝の念がこみ上げてくる。
「さぁ、また1つ評価の問題を解決したぞ。 次のお困りのお客様はどこだ? すぐにお助けに行きますよ!」と、こぶしを握りながら矢野はつぶやいた。