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EMIフィルタってノイズ対策にどれだけ効くの? (2)

テクノシェルパ技術コンサルタントの原田です。

2回シリーズのEMIフィルタの評価指標と実際の効果について、前回はEMIフィルタの評価指標の説明を致しました。今回は評価指標の一つとしての減衰量と実際の効果を比較し、効果的なノイズ対策のために考慮すべきことを述べたいと思います。

 

 

最初に前提として、EMIフィルタの減衰量は、用いたフィルタ素子を図1の簡易モデルで表し、その組み合わせで構成されるものを計算によって求めることとします。なお、評価系のインピーダンスは一般的な50 Ωとしています。

 

図1 基本素子の簡易モデルと減衰量

 

効果確認として取得したデータは、図2のようにEUTとしてDC-DCコンバータを用い、その電源ラインの伝導エミッションをCISPR32で定める条件に従って測定したものです。

 

図2 EUTと評価系の構成

 

以下に、EMIフィルタの構成ごとにその減衰量と実際の効果を比較し、ノイズ対策でEMIフィルタを用いる際に注意すべき点について考察します。

 

1. 回路インピーダンスの影響

前回のブログで評価指標についてはその前提条件に注意する必要があり、減衰量に関しては50 Ω系で評価されることを述べました。しかし、実際の回路は入出力のインピーダンスが50 Ωであるとは限りません。図2の評価系で考えると、電源ライン側のインピーダンスはLISNを設置するためおよそ50 Ωと考えて良いかも知れませんが、EUT側のインピーダンスは不明です。

フィルタなしと図1bのLを用いた場合の、伝導エミッションの測定結果比較が図3になります。

 

図3 EMIフィルタの効果確認

 

確かに効果が見られますが、図1bに見られる減衰量ほどに伝導エミッションレベルが下がっているわけではありません。

EUT側のインピーダンスが50 Ωからずれていると、実際の減衰量は図1bの減衰量より、大きくも小さくもなります。これが一つの原因と考えられます。

 

2. EUTの浮遊インピーダンスの影響

上記以外の減衰量と実際の効果に差が出る理由として、ノイズがEMIフィルタを迂回してしまうような経路(流出パス)がEUTに存在することが原因としてあげられます。EMIフィルタの入出力間にノイズの結合に寄与するインピーダンスが存在すると、ノイズはこれを流出パスとして出て行ってしまいます。この場合、EMIフィルタの減衰量が大きいほど、周波数が高いほど、ノイズはこの経路を通って流出しやすくなります。

また、EUTの対グラウンドインピーダンスも、特にCに対して、影響の大きい因子としてあげられます。これはLがノイズ電流の流出をせき止める働きをするのに対して、Cはノイズ電流をグラウンドに還流させることでその流出を防ぐ、という機能の違いによります。Cではアース線など、還流経路のインピーダンスが高いとその効果が十分に発揮されず、減衰量から期待されるような結果が得られないことが起こりやすくなります。

 

3. EMIフィルタを複数個使用した場合

複数のEMIフィルタを直列、あるいは並列に用いた場合、その効果はどうなるのかを検証します。図4は1個の大きな値を持つC, Lと、それと同等になるよう小さな値を持つC, Lを複数個用いた場合の、減衰量の比較です。

 

図4 EMIフィルタを複数個用いた場合の効果

 

C, Lのどちらも、複数個使いの方が図1にみられるような浮遊容量や浮遊インダクタンスの影響が軽減され高周波特性が優れていることがわかります。

次にこれを測定した伝導エミッションの結果をCについて図5、Lについて図6に示します。

 

図5 伝導エミッションレベルの比較 (C)

 

 

図6 伝導エミッションレベルの比較 (L)

 

Cについて、図4(a)の減衰量は10 MHz付近より高い周波数で差が見られますが、図5のエミッションレベルではあまり差異が見られません。一方、Lについて、図4(b)の減衰量は500 kHz付近より高い周波数で差が見られ、図6のエミッションレベルでは、10数 MHzまでは2-10 dB程度の改善が見られています。

Cの複数個使いはノイズ対策ではよく用いられる手段ですが、2項で述べたようにEUTの対グラウンドインピーダンスが十分でないとその効果が発揮できない例となります。

 

4. 縦続接続の効果

CとLを縦続接続したEMIフィルタの効果について見て行きます。図7のようにC, Lを構成し、この組を1段とよぶこととし、これを縦続接続させた場合の減衰量は図8のようになります。また、これに対応する測定結果を図9に示します。

 

 

図9 段数による伝導エミッション比較

 

図9から、測定結果は段数が増えても改善レベルはわずかであることがわかります。単純にEMIフィルタの性能を上げても、これまで述べてきたような因子の影響によって効果が上がらない例になります。

 

以下、まとめを行います。

  • 減衰量はEMIフィルタ効果を感覚的に理解しやすいという利点がある。
  • しかし、EUTの入出力インピーダンスが必ずしも減衰量の評価条件と一致しないため、そのままの効果が現れるとは限らない。
  • さらに実際の製品において、ノイズの流出パスが存在する場合や、逆にノイズのグラウンドへの還流経路のインピーダンスが十分低くない場合に、減衰量に応じた効果が得られないことがある。
  • 一般的に減衰量に応じた効果はインダクタでは得やすく、コンデンサでは得にくい。これはコンデンサがグラウンドにノイズを迂回させる機能であり、浮遊インピーダンス成分の影響を受けやすいため。
  • EMIフィルタの減衰量が大きいほど、周波数が高いほど、減衰量と実際の効果の差が出やすい。

ノイズ対策を行う際はこれらのことを考慮して、適切なEMIフィルタの選定に活かしていただければと思います。

 

当社にはiNARTE認定のEMCエンジニア、経験豊富なEMC対策・評価のプロフェッショナルがおります。皆様のお困りごとの解決に是非、EMC対策コンサルサービスをご利用ください。

 

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