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同軸ケーブルの特性インピーダンスは任意に設定できるのか?

同軸ケーブルは、マイクロ波などの高周波信号の伝達でよく使われます。

同軸ケーブルの特性インピーダンスZ0は特殊なものを除いて、50Ωか75Ωです。これら以外の、例えば、63Ωや37Ωなどの特性インピーダンスを持つ同軸ケーブルは見かけることはまずありませんよね。

50Ω、75Ω以外の同軸ケーブルは特別に作るなどしないと入手は難しいでしょう。

それでは、ここで質問です。

特別に注文(または自作)しさえすれば、どんな特性インピーダンスを持つ同軸ケーブルでも手に入るものなのでしょうか? 例えば、Z0=200Ωはどうでしょうか?

Z0=√(L/C)=1/2π√(μ/ε)×ln(D/d)=138/√ε×log(D/d)
の関係から、Z0を縦軸、(D/d)を横軸にプロットしたのが下図です。

ここで、Dは同軸ケーブルの外部導体の内径、dは内部導体の直径です。
εは、外部導体と内部導体を隔てる誘電体の比誘電率です。
この誘電体を同軸ケーブルでよく使われるポリエチレンであるとし、ε=2.3を採用します。

グラフから、Z0=200Ωとなるのは、(D/d)が100を少し超えた辺りであることが分かります。
ちゃんと計算すると、(D/d)は約157.7です。

さてここでお立合い!

(D/d)= 157.7の同軸ケーブルってどんなものでしょうか?

かなり太目の同軸ケーブルでD=10mmとしても、dはたったの78μmです!!
中心導体が78μmしかない同軸ケーブルって、ちょっと想像ができませんね。
軽く曲げただけで折れそうです。
そして、そもそも作るのが極めて困難でしょう。

では逆に、特性インピーダンスが小さい同軸ケーブルだったらどうでしょうか。

グラフの直線を左下に辿りましょう。
どんどん(D/d)が小さくなっていきます。
Dとdが同じ寸法に近づいていくということです。
外部導体と内部導体を隔てる誘電体の厚みがどんどん薄くなっていきます。
こちらも、製造上、取り扱い上、大変になってきます。

このような構造的な理由により、同軸ケーブルで実現できる特性インピーダンスには自ずと限界があるのです。

そしてもう1つ、同軸ケーブルのインピーダンスが50Ω、75Ω程度になっている、とても大きな理由があります。

それは表皮効果です。

同軸ケーブルを流れる高周波信号は、表皮効果の影響を受け、導体損失が発生します。
この表皮効果による導体損失は、L=((D/d+1)/ln(D/d)で表されます。

そして、誘電体が何であるかに関わりなく、D/d=3.5911で、損失は最小値を取ります。

D/d=3.5911のとき、ポリエチレンを使った同軸ケーブルの特性インピーダンスは、50.5Ωです。

ロスが最低になるD/d比で同軸ケーブルを作ると特性インピーダンスは50Ω近辺となり、このロスが最低になることが理由となって米国を中心として50Ωの標準が広まりました。

ちなみに、75Ωの特性インピーダンスの方は、ポリエチレンが開発される以前、誘電体を使わない空気で外部導体と内部導体を分離していて、ロス最低条件のD/d=3.5911のとき、特性インピーダンスが75Ωになっていたことの名残りなのです。

その後、ポリエチレンが開発され、ポリエチレンを誘電体とする同軸ケーブルとして、インピーダンスを75Ωに合わせ直したものが作られました。 しかし、インピーダンスを合わせるには、(D/d)の比を6.67にする必要があります。

この値は、ロス最低条件のD/d=3.5911から離れていることから、75Ωの同軸ケーブルはロスが50Ωに比べて高くなるのです。

このため、微弱な信号を扱うが故にロスを嫌う高周波用途では、50Ωが標準的に用いられているということなのです。

このように、同軸ケーブルひとつ取っても、高周波のうんちくを楽しむことができるのですね。

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