みなさんこんにちは。営業課の塩谷です。
2021年5月に「紛争鉱物調査とは」というタイトルで、ブログを執筆させていただきました。
その後、そのブログを見て、「紛争鉱物調査のサービスについてどのようなことができるのですか?」というお問い合わせをいただいたこともありました。関心をもっていただいていることを大変うれしく感じました。
また、紛争鉱物調査のお問い合わせはここ最近増加傾向にあります。これは取りも直さず、日本の企業で、紛争鉱物調査が定着してきているということになります。
少しでも多くの方に紛争鉱物調査について理解を深めていただきたいという思いから、今回「紛争鉱物とは ~その2~ 」というタイトルで執筆させていただくこととしました。
まず、簡単に前回のおさらいをします。詳細は「紛争鉱物調査とは」をご参照ください。
紛争鉱物とは具体的には次の4種の金属に対する調査でした。これらはそれぞれの頭文字から3TGと呼ばれています。
Tantalum(タンタル)、Tin(スズ)、 Tungsten(タングステン)、 Gold(⾦)
この3TGは、原産地であるコンゴ民主共和国で長期間続いている武力紛争の資金源になる可能性が指摘されています。
米国では、この資金源を断ち切ることを目的として、上場企業に製品に含有する3TGについての情報開示を義務付けた米国金融規制改革法(ドッド=フランク法)が2010年に成立しています。(2012年施行)
これを機に紛争鉱物調査は世界中に広がりました。日本では法制化はされていませんが、電子情報技術産業協会(JEITA)の「責任ある鉱物調達検討会』が取り組みを推進しています。その影響で、日本でも紛争鉱物調査は浸透してきています。
また、実際の調査ではCMRT(Conflict Minerals Reporting Template)という統一フォームを使うということもお話ししました。完成品メーカーが自社製品に3TGを含有しているか否か、また含有している場合はその原産地域はどこかを調査するフォームです。
前回のブログでは、紛争鉱物調査の基本となる米国のドッド=フランク法における規制内容や調査方法についてお話ししていますが、紛争鉱物調査が浸透するにつれ、現在ではデュー・ディリジェンス(DD:企業などに要求される当然に実施すべき注意義務および努力のこと)の高まり、また各国における法制化の進歩により「対象となる鉱物」、「対象となるリスクと国・地域」が、拡大している傾向にあります。また、今後もさらに拡大することが予想されます。今回はこの対象の拡大にフォーカスして、現状と今後の見通しについてお話しします。
「対象となる鉱物」の拡大
これまでは3TG(タンタル、スズ、 タングステン、⾦)が規制の対象でした。現在もこの3TGが主流ではあるのですが、コバルトとマイカも調査の対象とする企業も増えてきています。コバルトとマイカは、現時点では何かの法規で規制されているわけではありませんが、採掘現場における児童労働、危険な労働環境などの人権侵害のリスクが懸念されるため、各企業の判断で調査の対象としています。
コバルトとマイカについては、EMRT(Extended Minerals Reporting Template)という統一調査フォームがあります。EMRTのイメージを示します。見た目はCMRTとほぼ同じです。CMRTに対して対象となる鉱物が3TGではなく、コバルトとマイカになったものをイメージしていただければよいと思います。
また、今後もさらなる多鉱物化(天然黒鉛・ニッケル ・リチウムなど)の検討が進んでいます。
「対象となるリスクと国・地域」の拡大
対象となるリスクと国・地域がどのように拡大しているかを、2010年に成立(2012年施行)した「ドッド=フランク法」と、2017年に発行(2021年適用)された「EU紛争鉱物規則」を例に比較します。
まず、リスクですが、ドッド=フランク法では紛争を起こしている武装勢力の資金源となっているか否かということでした。一方、EU紛争鉱物規則は2011年にOECD発行した「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」をベースに制定されており、リスクの定義はガイダンスの付属書Ⅱ(AnnexⅡ)で謳われています。具体的には以下の6項目となります。
-付属書Ⅱ(AnnexⅡ)-
- 鉱物の採掘、輸送、取引に関連した人権侵害(児童労働など)
- 非政府武装集団に対する直接的または間接的支援
- 公的または民間の保安隊による不法行為(みかじめ料)
- 贈収賄および鉱物原産地の詐称
- 資金洗浄
- 政府への税金、手数料、採掘権料の未払い(脱税)
ドッド=フランク法と同様、「非政府武装集団に対する直接的または間接的支援」もリスクとして定義されていますが、その他、人権侵害(児童労働など)、みかじめ料、贈収賄および鉱物原産地の詐称、資金洗浄、脱税など多岐にわたっています。今後はESG関連リスク(事業体に影響を及ぼし得る環境・社会・ガバナンスに関連するリスク)も視野に、リスクはさらに多様化する方向にあります。
次に対象となる国・地域の拡大についてお話しします。ドッド=フランク法ではコンゴ民主共和国(DCR)とその周辺9か国が対象でした。EU紛争鉱物規則では、紛争地域および高リスク地域を「CAHRAs」と呼ばれるリストに掲載しています。
CAHRAsは2020年に初版が公開され、以降、四半期に一度の頻度で更新されています。最新版(2022年3月30日更新)では、29か国にわたる210地域が掲載されています。国・地域も。ドッド=フランク法に比べ大幅に拡大していることがわかります。ちなみに昨今のロシア・ウクライナ情勢は現時点では反映されていません。今後は世界の情勢次第ですが、対象となる国・地域が減少することを祈るばかりです。
ドッド=フランク法とEU紛争鉱物規則の比較をまとめると次のようになります。
※ JEUTA発行:責任ある鉱物調達 調査説明会 2022 資料を引用
以上、紛争鉱物の続編をお話しさせていただきました、「対象となる鉱物」「対象となるリスクと国・地域」は、EU紛争鉱物規則の例でお示ししましたように大幅に拡大しています。
従来のドッド=フランク法に基づく紛争鉱物調査は、比較的定着してきましたが、対象の拡大により、実務的には新たな課題も多く出てくると思われますが、環境負荷物質調査で培ってきた経験を活かし、お客様のお役に立てるよう努めますので、紛争鉱物調査でお困りの際は是非お声かけいただければと思います。お問い合わせにはWeb会議でお困りごとを直接お聞きするスタンスで対応しています。お気軽にお声掛けください。
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