Wave Technology(WTI) | 半導体周辺回路とその応用製品の開発・設計会社

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電流が渦潮になるってほんと?

みなさんこんにちは。技術教育センター長の前川繁登です。

今年も4月に新入社員が入社して元気に新人研修を受けてくれています。その研修講座の一つに私が教えている電磁気学があり、前回のブログに引き続きその講座でのエピソードをご紹介します。

このブログでは、当社メインキャラクターの「なみりん」(当社へ入社志望の女の子)と、イッくんとのインタビュー形式でお送りします。(イッくんは下名のニックネームです(イクセイ))

図1 水に浮かべた蓋を手で持った磁石で回す実験

■なみりん: 前回はモーターや発電機の原理の実験でしたが、今回は「渦電流」の実験をしたと聞いたけどそれは何ですか? 鳴門の渦潮みたいに電流がクルクル回るの?

 

■イッくん: そのとおりですよ、よくわかりましたね。金属の平板に磁石を近づけて磁石を左右や上下に動かすと金属板内に、電流の渦ができるんですよ。磁石からの磁力線が金属板を通り抜けますが、その磁力線本数が変化するとそれを妨げるように金属板内に渦状に電流が流れるんです。
その実験のひとつが、図1に示すように、鍋の蓋を水に浮かべて磁石で回す実験です。蓋の端に磁石を近づけ、円周状にゆっくり回すと、なんと不思議、蓋が一緒に回りだすんですよ。

 

■なみりん: へぇ~、蓋に何もくっつけてないのに回るなんて、魔法のようだわ! でもそれって、磁石の引力で回るだけじゃないの?

 

図2 磁石移動による円板回転の原理

■イッくん: いいえ、図1では、鍋の蓋はアルミ製なので磁石の引力は働きません。この実験では、アルミ蓋以外に、ステンレス円板やDVD板、プラスチック円板なども試してみましたが、アルミ製が最もよく回転しました。よく回転する材料について受講生の予想は、ステンレス製でしたが、電気抵抗値がステンレスよりアルミの方が低いので、アルミ製がよく回ります。

その原理は、図2のように磁石と蓋(円板)を斜めから見た図を使って次のように説明できます。
① 磁石を円板の周縁を時計回りの方向に動かす。
② 磁石の移動先である円板の左側において、磁石が近づくので円板内の下向きの磁力線が増える。
③ 磁力線が増えるとそれを妨げるように円板内に磁力線を減らす方向に渦電流が発生する。
④ その渦電流により上向きの磁力線が増える。
⑤ その増えた磁力線により円板と磁石との間に斥力が生まれ、円板は水に浮いているので、その反発力で磁石の移動方向である左方向に回転力が生じて円板が回り出す。
⑥ 磁石の移動元である円板の右側においては、②~⑤の逆であり、磁石が遠ざかるので磁力線が減るが、それを補うように円板に逆向きの渦電流が発生し、それにより磁力線が下向きに発生する。その結果、磁石とその右側の円板との間には引力が生まれ、円板にやはり左方向の回転力が生まれる。

■なみりん: なるほど~、一つ一つ説明されるとなるほどと思うわ。でも、なんで磁力線が増えたり減ったりすると金属の蓋に電流が流れるのかなぁ? 金属線なら流れそうに思うけど、薄い平板なので不思議だわ。

 

■イッくん: この原理を説明すると、次の二つの説明方法があります。
(1) 一つは、前に習った「ファラデーの法則」で、導体には磁力線の変化を妨げるように電流が流れる、という原理があり、上述のように、磁界の変化と逆に電流が流れるので、反発力や引力が生まれます。ただ、円板のように導線のない導板ではわかりにくいのですが、円板の中に導線がたくさん渦巻いていてコイルがあると考えてみてください。
(2) もう一つの説明は、前回に紹介した「ローレンツの力」による起電力であり次の式で表されます。

図3 ローレンツ力の方向

つまり、金属円板の内部には電子がたくさんありますが、磁石の移動により磁束密度Bに対し電子が相対的に速度vで運動するのでこの力Fを受けて移動する、とも考えることができます(図3)。
(1)と(2)のどちらの理解方法も基本は同じ電磁誘導の原理ですが、自分がわかりやすい説明で理解しておきましょう。

 

■なみりん: またローレンツ力ですか? 電子は見えないので難しいけど、原理はわかったとして、なんでこのような現象を学ぶのかなぁ?

 

図4 渦電流による加熱を示すIHコンロ断面図

■イッくん: そうですね、この現象を学ぶ理由は、この原理が電磁誘導の法則を知るよい例であることだけでなく、これが実際によく使われているからです。この現象は「アラゴーの円板」と呼ばれますが、最も使われているのは、家庭にあるIH調理器(*)やIH炊飯器でして、最近、ガスコンロから安全なIHコンロに替えた家庭が多いと思います。IHコンロでは、図4に示すようにコンロの中に電磁石となるコイルが入っていて、それによる磁力線の変化で、上部の鍋底内部に渦電流を発生させそのジュール熱で鍋を加熱するのです。火を全く使わなくても温められるって安全ですし不思議ですよね。また、家庭にある100V電源の電力計や電車の電磁ブレーキにも応用されています。

図5 トランスでの渦電流損失

逆に、コイルやトランスにおいて、交流をコイルに流したときに中心にある鉄心に渦電流が発生しそれによるジュール熱で電力が損失するのでやっかいな現象でもあります(図5)。電源回路でトランスを使ったり設計する際にはこの渦電流損を知っておくことが大事ですよ。
この渦電流損を減らすには、鉄心を、絶縁被覆した薄鉄板を複数枚、積層した構造にすることが有効です。複数枚に分けることで鉄心に発生する渦電流の回路を遮断することができるのです。

 

■なみりん: なるほど、IHコンロはうちでも使っていて前からどうして加熱できるのか不思議に思っていたの。また、渦はお風呂の水を抜くときによく見るけど、電流でも発生するのね。いやなお風呂掃除の息抜きに渦をよく観察してみます~

 

最後までお読みいただきありがとうございました。では、次回をお楽しみに。

 

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