みなさん、こんにちは。
パワーデバイス設計課の中松です。
前回のブログでは短絡試験についてお話ししましたが、今回は破壊試験繋がりで、パワーMOSFETのアバランシェ耐量試験についてお話ししたいと思います。
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アバランシェ試験で測定するアバランシェ耐量とは、パワーデバイスに耐電圧以上の電圧を印加していくと急激に電流が流れはじめ(アバランシェモードといいます)破壊に至ってしまうのですが、どのくらいのエネルギーまで耐えられるかということを指します。そして急激な電流量の増加の様子がアバランシェ(Avalanche:雪崩(なだれ))のようであることから、この現象をアバランシェ降伏または雪崩降伏と呼びます。
パワーMOSFETに耐電圧以上の電圧を印加した場合を例に取り、その原理を図1とともに簡単にご説明します。
図 1 アバランシェ降伏のイメージ図
①高電界によってMOSFETの空乏層中のキャリアが加速される。
②十分に加速されたキャリアが原子と衝突することで、原子の価電子をたたき出し、新たに電子とホールが生成される。
③原子に衝突したキャリアと新たに生成されたキャリアはそれぞれ高電界によって加速される。
④それぞれ他の原子に衝突し、さらに電子とホールを生成する。
⑤これを繰り返すことで次々にキャリアが増加し、電流が流れる。
・・・雪山では、小さな落雪などが引き金となって大きな雪崩を引き起こしますが、半導体の中でもよく似た現象が起こっていることからアバランシェ降伏という名前がついた訳です。
パワーMOSFETでは回路の寄生インダクタンスやトランスの漏れインダクタンス等によってオフ時に過電圧が発生し、アバランシェモードに至ることがあります。アバランシェモードではパワーMOSFETに極度のストレスがかかるため、信頼性が低下し、最悪の場合、MOSFETが破壊します。アバランシェモードが許容されているパワーMOSFETもありますが、できるだけアバランシェモードに入らないように設計するのが望ましいです。
また、アバランシェモードで動作した場合、どのくらいまで耐えられるかを表す指標が、冒頭で延べたアバランシェ耐量であり、データシートでは電流やエネルギー等で規定されます。
そして、万が一アバランシェモードに入った場合であっても問題ないかどうかを検証するために、パワエレ回路設計を行う際にはパワーMOSFETのアバランシェ耐量を調べておく必要があります。
以下にアバランシェ耐量を測定する試験回路と波形を示します。この試験はUnclamped Inductive Switching(UIS)と呼ばれます。この試験ではDUTを一旦オンにしてL負荷に電流を蓄え、その後DUTにオフにし、L負荷の逆起電力と電源電圧によってアバランシェ動作させ、アバランシェ期間のエネルギーを測定します。
図 2 UIS試験回路と波形
それではアバランシェ期間中に消費するエネルギーであるアバランシェエネルギーEASを求めてみましょう。まず、アバランシェ期間の時間tAVを求めます。電流のピーク値をアバランシェ電流IASとし、電源電圧をVDD、L負荷の値をLとします。アバランシェ電圧BVDSSは一定とすると、tAVは
になります。
よって、EASは
となり、EASはLに比例し、IASの二乗に比例します。
ところで、データシート上でアバランシェ耐量を比較する場合、LやIASの値が異なっていてもEASが同じになる条件であれば比較しても問題はないのでしょうか。例えば、L=100µH、IAS=20Aの場合とL=400µH、IAS=10Aの場合でエネルギー的には同じになります。結論から言うと問題ありなのですが、それに関しては次回、ご説明させていただきます。
当社には、パワーデバイスの特殊な試験環境と、特殊な試験に対応できるエンジニアがいますので、アバランシェ耐量試験をはじめとする各種パワーデバイスの評価を必要とされる場合は、是非ご相談ください。
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