皆さんこんにちは。通信設計第二課の池口です。
今回は電気回路の「無限大」の話をしたいと思います。
電気回路の説明で「無限大」というのを時々目にします。オペアンプ(図1)のゲインや入力インピーダンスなどで「無限大なので無視できる」というものです。理解するには楽なのですが、これで思考停止になってはいけない、という話です。
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図1.オペアンプ
教科書などでオペアンプのゲイン(開ループゲイン)は非常に大きく無限大と言ってもいい、と聞きますが、実際の電圧利得は100dB程度です。
電圧利得が100dBとは10万倍のことです。
さらにオペアンプのゲインには周波数特性がありますので、DC付近では100dBあったものが100kHzになると40dBくらいになるものもあります。40dBだと100倍です。こうなると無限大とみなすことはできません。
オペアンプでゲイン10倍の反転アンプを作るとき、抵抗比は図2の回路でいうとRs:Rf=1:10にしておけば良いはずですが、オペアンプの開ループゲインが100倍まで下がってくると単純にはいかなくなってしまいます(反転アンプのゲインを求める計算式は、理想オペアンプの開ループゲインが無限大であることからイマジナリショートという概念を用いて導出されているので、この前提条件が変われば式は成立しません)。
図2.反転増幅回路
このことについてもう少しご説明します。
教科書にあるとおり、オペアンプ(差動アンプ)は入力端子(+/-)の電圧差のゲイン倍が出力端子に現れます。開ループゲイン無限大なら(+/-)端子の電圧差は無くなる、というのも教科書によく書かれている話です(これがイマジナリショートの概念です)。
しかし開ループゲインが100倍だと(+/-)端子に現れる電圧差が無視できなくなります。出力を10V取るとき入力の電圧差は1V/100=100mVになります。
この結果、10倍の反転アンプを設計したはずが実際のゲインは9.9倍になってしまいます。
一見するとたいした差ではないように感じますが、厳しい精度が要求される回路では問題になりますし、使用周波数が高くさらにゲインが下がる回路にもかかわらず、気づかずに教科書どおりの計算式を使ってしまって「動作がおかしい???」と悩んでしまうことになります。
教科書などで目にする反転オペアンプや非反転アンプのゲインの計算式は、理想オペアンプの開ループゲイン「無限大」と、入力インピーダンス「無限大」(今回は説明を省略しました)を前提条件に求められたものです。よって、開ループゲインが無限大ではない状況では教科書そのままの計算式を用いることはできません。
みなさんも電気回路の「無限大」で思考停止に陥らないように注意しましょう。
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