前回(084 EMI対策 ~直列素子のSパラメータ(インダクタ編)~)で求めた式S11とS21をExcelの複素関数を使って反射損失(リターンロスまたは入力反射特性とよぶ)と通過損失(インサーションロスまたは通過特性とよぶ)を求めます。
なみりんよ、さっそくExcelの複素関数を使ってS11とS21を求めてみるのじゃ。
①最初にインダクタLと特性インピーダンスZOを記述します。
ここではLを10nH、ZOを50Ωにします。
②つぎに周波数fを記述し、角速度ω( =2 π f )[rad/s]を求めます。
③さらに角速度ωとインダクタLとの積でリアクタンスωLを求めます。
よろしい。つぎは、複素関数を使ってS11を求めてみよう。
COMPLEX関数を使ってみました。
④S11の分子の実数はゼロで虚数はωLになります。
⑤S11とS21の分母の実数は2ZO、虚数はωLになります。虚数単位はjです。
つぎは⑥IMDIV関数を使って④の分子を⑤の分母で割ります。
S11が求まったようじゃな。
反射損失を求めるために、S11の絶対値|S11|を計算しておこう。
反射損失は、以下の式で求めることができる。
反射損失 = 20 log(|S11|) [dB]
⑦IMABSを使って、絶対値|S11|に変換しました。
⑧⑦で求めた絶対値|S11|の対数をとり、20倍しました。
これが反射損失なのですね。
反射損失が求まったようじゃな。
つぎはS21をS11と同じように求めてみるのじゃ。
⑨S21の分子は2ZO(実数)です。
分母はS11と同じなので下のような計算式になります。
⑩IMABSを使って、絶対値|S21|に変換しました。
⑪⑩で求めた絶対値|S21|の対数をとり、20倍しました。
これが通過損失ですね。
S21、通過損失も求まったようじゃな。
これがなみりんが求めようとしていた特性じゃな。さあ、横軸を周波数[MHz]にして、反射損失と通過損失をグラフ化してみるのじゃ。
反射損失と通過損失のグラフは下のようになります。
インダクタ10nHを伝送線路上でシリーズ接続すると通過損失は1.6GHzで約3dB減衰し、さらに周波数を高くするごとに減衰量が大きくなります。一方反射損失で見ると1.6GHz以上の周波数では入力反射量が大きくなっています(全反射)。これはローパスフィルタ(LPF)だわ。
なみりん、そう言いたいところではあるが。。。。実際のインダクタは、Lだけではなく下の回路図に示した浮遊容量CO (ストレーキャパシティーとよぶ)と等価直列抵抗(ESR)と等価並列抵抗(EPR)なるものが存在するのじゃ。
なんだか厄介な計算式になりそうですね。
難しく考えなくてよい。
S11やS21の式を作る過程で、分子や分母に出てくる複素多項式を実数と虚数にまとめるのじゃ。
まとめた後に複素関数を使えば容易に求めることができるぞ。
次回は実際に演習してみよう。