みなさんこんにちは。電源設計課の合田です。
今回はリニアレギュレーターやDCDCコンバータなどの電源ICの中に入っている基準電圧源についてお話しします。
皆さんが何気なく使っているリニアレギュレーターやDCDCコンバータですが、電源を入れると当たり前のように所望の出力電圧が出てきますよね。なぜその電圧が安定して出力されるのだろう? と疑問に思ったことはないでしょうか?
実はこれらのICの中には基準電圧源と、オペアンプが入っていて、基準電圧と出力電圧(の分圧など)を比較して出力が所望の電圧になるように制御しているのです。
図1 リニアレギュレータの回路例
今回はその中の基準電圧源のお話です。
一般的にICに入っている基準電圧源にはバンドギャップリファレンス(BGR)と呼ばれる方式が使われていて、電源電圧が変わっても周囲温度が変わっても一定の出力電圧(おおよそ1.25 V)が出せる仕組みになっています。
バンドギャップリファレンスという名前の由来ですが、シリコンのBand Gapが1.22 eVであり、この値に近い基準電圧なので、Band Gap Referenceと呼ばれています。
それではバンドギャップリファレンスがどういう仕組みになっているのか例を挙げて見てみましょう。
図2 バンドギャップリファレンス回路例
図2はバンドギャップリファレンス回路の一例です。
回路は、抵抗とダイオード(ここではダイオード接続された寄生PNPトランジスタQ1とQ2)とオペアンプで構成されています。
この回路のポイントは、ダイオード(PN接合)の負の温度特性(おおよそ-2m V/℃)を、Q1とQ2に同じ電流を流したときに発生する電圧差⊿Vbe(R3の両端電圧)の正の温度特性を利用して相殺するというところにあります。
バンドギャップリファレンスの出力を式で表すと下記になります。
VbeQ1 の-2m V/℃の負の温度特性に、R1I1の +2m V/℃の正の温度特性を足し合わせればフラットな温度特性が作れますよね。(詳細は後述)
ここで、この計算式の中に電源電圧の項が無いことにお気付きと思います。
そうです、VBGRは電源電圧に依存しません(もちろん制限はありますが・・・)。
電源電圧にも周囲温度にも依存しないバンドギャップリファレンスという基準電圧源は、レギュレータ回路を始めさまざまなICで使われています。
ブロック図ではただ単に「VREF」などと小さく書かれていますが、なかなか重要な役割をはたしている回路です。
<以下、計算式の詳細になります>
それでは、ここから詳細説明です。
まず、前提条件としてR1 = R2とします。
オペアンプの入力はイマジナリーショートで同電位なので、R1、R2には同じ値の電流が流れます( I1 = I2 = I )。
オペアンプの入力には理想的には電流は流れないので、Q1、Q2、R3にも同じ値の電流( IQ1 = IQ2 = I3 = I )が流れることになります。
電流 I が流れるときのQ1、Q2それぞれのVbeは次の式で与えられます。
ここで、ISは逆方向飽和電流、nはQ1、Q2の比で、ここでは8です。
( n はある程度の⊿Vbeが作れればいいので、8でなくてもかまいません。)
VTは熱電圧で、VT = kT/q
k(ボルツマン定数) : 1.38×10-23 [J/K]
q(電子電荷) : 1.6×10-19 [C]
T (絶対温度) : 27 ℃のとき300[K] ←ここに正の温度特性がありますね!
式(1)よりバンドギャップ電圧は
式(2)、(3)より
となります。
式はできましたので、(R1/R3)VT ln 8 を+2m V/℃の温度特性にするにはどうすればいいのかですが、この項の中で、温度に関係しているのは先ほど出てきたVTの中のT (絶対温度) : 27 ℃のとき300 Kで、単純に1 ℃上がれば1 K 増加します。
よって、次の式が成り立ちます。
この式の中で決まっていないのはR1/R3ですのでR1/R3を求めると
よって、R1とR3の比を を11.15 : 1にすれば+2m Vの温度特性が得られるということが分かります。
以上、今回はバンドギャップリファレンスという基準電圧源についてお話ししました。
ご説明しましたとおり、負の温度特性と正の温度特性を組み合わせるという手法でフラットな温度特性を実現した回路ですが、世の中の回路も同様に様々な特性の組み合わせで成り立っています。特性改善や新しい分野で今までに無い新しい組み合わせを見つけて、できたらいいな!を実現するのって楽しいですよね。
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