みなさん、こんにちは。
株式会社Wave Technology 第一技術部 システム設計課の尾崎です。
今回のテーマは・・・、
モノポールチップアンテナのグランド面積を変更して放射効率を比較してみよう!
です。
まえおき(4G、LTE-Advancedの周波数帯とマルチバンドアンテナ)
2020年、日本でも5Gの通信サービスが始まったところですが、今回は4Gで使用するチップアンテナを取り上げました。ちなみに皆さんご存じだと思いますが、“G”はGenerationの意味で、4GではLTE-Advanced と WiMAX2という通信規格を使用します。そして、LTE-Advancedでは次のように複数の周波数帯が使用されます。(実はもう少しありますが割愛しています。)
表1 LTE-Advancedの周波数帯
帯域 |
Band |
800MHz帯(プラチナバンド) |
Band8,18,19,26,28 |
1.5GHz帯 |
Band11,21 |
1.7GHz帯 |
Band3 |
2GHz帯 |
Band1 |
現在では、各通信会社にそれぞれ複数のBandが割り当てられているため、スマートフォンなどにはそれらのBandに対応したアンテナが内蔵されています。
「多くのBandに対応させるには、その分、多くのアンテナが必要なの?」と思ったあなた、鋭いですね!?
実際には、1つのアンテナで複数のBandをカバーするマルチバンドアンテナと呼ばれるアンテナが使用されているため、アンテナをたくさん内蔵しているわけではありません。ただし、一般的にLTE-AdvancedではMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)という技術も使われているため、これに必要なメインとサブの合計2個のマルチバンドアンテナが搭載されています。(MIMOの説明は長くなるので省略します。)
モノポールアンテナ(グランドもアンテナの一部)
今回、取り上げたマルチバンドチップアンテナは、モノポールアンテナに分類されるもので、アンテナの長さがλ/4になるように作られています。十分な放射特性を得るにはλ/2(半波長)が必要で、残りのλ/4は接続しているグランドが肩代わりしています(鏡像効果、ミラー効果)。
つまり、グランドもアンテナの一部になっているということです。そのため、グランドの大きさ(長さ、面積)がアンテナ特性にとって非常に大事な要素になっています。
モノポールチップアンテナの放射効率とグランド面積の関係
では、実際にグランドの大きさがアンテナ特性にどのような影響を与えるのかシミュレーションで確認してみましょう。
今回は、あるメーカーが販売しているLTE用のモノポールチップアンテナを基板に実装したモデルを作成しました(図1)。そして、その基板サイズを変更したときのアンテナ単体の放射効率がどのように変化するのか見てみます(図2)。
(グランドサイズを変更するとアンテナのインピーダンスが変化し反射特性が変わります。反射特性を含めて比較すると純粋なグランドサイズの影響を比較できないため、ここではアンテナの反射特性を考慮せずアンテナ単体の放射効率で比較しています。)
図1. 基板サイズを一方向だけ変更したシミュレーションモデル
図2. 放射効率(アンテナ単体) vs 基板サイズ
何ということでしょう!?
1710M~2670MHzでは放射効率はあまり変化していないのに対して、810M~960MHzはグランドが小さくなると放射効率が徐々に低くなっているではありませんか!?
そうです、これはグランドの大きさが1710M~2670MHzのλ/4に対して十分なのに対し、810M~960MHzのλ/4に対しては不十分となっていることが原因です。
アンテナの反射特性や整合回路ロスを考慮する必要があるので、実際には更に効率が低くなります。マルチバンドアンテナは対象周波数が広いため整合回路の作成が難しいです。仮に上手く整合できたとしてもモノポールアンテナの場合にはグランドの面積がλ/4に対して十分でなければ、その分効率も十分に得ることができなくなってしまうのでグランド面積を十分確保するように設計してください。
今回は一方向のみサイズ変更した場合を検証してみましたが、グランドの形状やアンテナとの距離・方向によっても特性が変化します。
もしも、思ったほど通信距離が伸びない、通信できないといった場合にはグランドを見直してみるのもいいかもしれません。
ちなみに、ここでいう面積とは、表面積のことではなく長さと広さです。表面積を稼ぐために表面を凸凹に粗くしたり、グランドを折りたたんだりしてもあまり意味がありません。
また、グランドの場合には、誘電体の波長短縮率を見込んだ面積の縮小ができないため、基板の材質変更による改善も難しいです。
逆に言えば、面積が稼げるのであれば、基板でも金属板でも、金属筐体などもグランドとして使用することができます。
これから製品をデザインする方はグランドをどうするのか、イメージしながらデザインすることをお勧めします。
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