テクノシェルパ技術コンサルタントの原田です。
前回のブログ[EMC測定ではこんなことに注意しましょう!] に引き続き、今回も放射エミッションの測定におけるポイントについてお話しします。
放射エミッションの代表的な測定の構成は図1のようになります。
図1 放射エミッションの測定構成
EUT(供試機器)とアンテナ間の距離は規格に則り、3 mや10 mとしますが、このときのポイントとしては以下があげられます。
- EUTは単体ではなく、システムとして評価する
- EUT回転、アンテナ上下、アンテナ偏波切り替えを行い、ノイズレベルの最大値で評価する
- 測定距離は回転中心-アンテナ給電点ではなく、回転させたときのEUTの端からアンテナ給電点までの距離とする
なお、アンテナ給電点はバイコニカルアンテナやダイポールアンテナでは分かりやすいのですが、ログペリアンテナや複合アンテナではアンテナによって異なりますので注意が必要です。(通常、アンテナに何らかの印がつけられています)
上記の評価ポイントにおいてEUTを回転させるのは、EUTから放射されるノイズの強度に回転角度による分布があるからです。
では、アンテナを上下させるのはどのような理由からでしょうか?
もちろん上下方向のノイズ強度の分布をカバーするためもありますが、主な理由は床面からの反射波の影響を無くすためです。
図1のオレンジ色の点線で示した、ノイズ(電磁波)の伝搬経路を見ると、直接波と反射波で経路長が異なることが分かります。この経路長の差がちょうどλ/2になると直接波と反射波の位相が逆になり、合成された電磁波の強度がゼロになってしまいます。このような経路長の差(位相差)に起因する受信レベルへの影響を防ぐためにアンテナを上下させているのです。
とは言え、最終的なコンプライアンス測定(認証試験の測定)であればともかく、ノイズ対策段階でアンテナを上下させるのは効率や測定者の負荷を考えると、なかなか受け入れ難いものがあります。このため、アンテナ高さを固定して測定されるケースがしばしば見られます。
この場合、その影響はどのくらいあるのでしょうか? 簡易的なモデルを用いて計算してみましょう。
図2の測定配置で、かつ以下の条件に基づいた場合の、アンテナを固定したことによる受信レベルへの影響を図3に示します。
- 水平偏波の電界を対象とする
- 距離減衰の差、波源とアンテナの相互作用は考慮しない
- 波源、アンテナの指向性はXY平面内で均等
図2 測定配置
図3 アンテナを固定した場合の受信レベルへの影響
ここで示した条件はかなり厳しいものになっており、これより悪くなることはあまり考えられないと思います。このため、実際にはこれほどの影響は出ないかも知れません。しかし、アンテナを固定して評価した場合、相当程度に実際の値と違っている可能性がある、と意識することが必要です。
最初にアンテナを移動させた場合と固定した場合の差異を確認し、それを織り込んでノイズ対策を進めるのがひとつの方法かもしれません。
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